街のあちこちで椿の花が見られる時季になりました。普段、何気なく目にしていた近所の庭木が、花を開いて初めて椿であることに気づくこともしばしば。街角や山里で、椿の花の色はとても鮮やかで、私たちの目を楽しませてくれます。
日本の生活に根付いた植物
カメリア・ヤポニカ(Camellia japonica) という学名を持つツバキは、古来より日本人の生活と信仰に深く結びついた植物です。鮮やかな紅や白の花は花鳥画にも多く描かれているモチーフですし、種子からはオイルが、葉はお茶に、硬く粘りのある樹木の部分は木材として家具や楽器に、さらに漆器の研磨炭(研ぎ炭)としても使われます。伊豆大島の椿油、奈良・東大寺の二月堂で行われる修二会(お水取り)で僧侶たちが和紙で椿の花を作ることでも有名ですね。
実は、古代、道後温泉の周りには椿の木がたくさん茂っていたとも言われ、道後とも縁の深い花。そして、伊織の本社がある愛媛県松山市の市花でもあります。
椿の花を探しに……
早春を彩る椿の花を求めて、「松山総合公園」内の「椿園」を訪ねました。
園内に植えられている椿はなんと約500種!! すごい数です。日本各地から集められた様々な品種に加え、中国、アメリカやニュージーランド、オーストラリアなどを原産としたツバキも。
名前、産地、花の色、咲き方などが記されたプレートがついているので、色や形、名前を確認しながら散策できます。
▲木のそばにはこんなプレートが
▼ドリス・デイの歌声を思い浮かべつつ……「ケ・セラ・セラ」
椿の開花時期は木によって(品種だけでなく植えられた場所によっても)ずいぶん違うようです。また、同じ木でも蕾、開花中、そしてすでに落ちてしまったものが混在しています。どの花が咲いているのかな〜と探しながら歩くのはなかなか楽しいものです。また時期をずらして何度も来てみたくなりますね。
▲遊歩道と回遊デッキがちょっとした迷路のようで楽しい。
段差や階段が多いので、すべりやすいところでは特にお足下にご注意を!
▲たくさんの蕾をつけた木も。次に来るのが楽しみ!
花との一期一会
とても生命力の強い木である椿ですが、その花はとてもデリケート。風やちょっとした衝撃ですぐに花弁が茶色くなったり、花ごと落ちてしまったり。
さらに、花を食べるヒヨドリや蜜を吸うメジロにとって椿はごちそう。花が大きいから蜜も多そうだし、花弁も食べごたえがあるんでしょうか……!? でも、そんな鳥たちのおかげで受粉ができて、椿は実を結ぶことができるわけで……自然界というのはなんともうまくできているものです。
この日も、椿の花をめぐって木々の間を飛び回るメジロとヒヨドリの攻防戦が繰り広げられていました。
▲椿の花の蜜を吸いにやって来たメジロ。不安定に揺れる花に器用につかまる
ベストな状態で出会うにはタイミングが大切な椿の花。まさに一期一会です。きれいに咲く椿を見つけたら、迷わず写真に収めましょう!
▲「出雲大社藪椿」(島根)
小ぶりな花ながら格式の高さを感じさせるような……
▲「赤城」(関東)
伊織オリジナルタオルの柄のイメージに近い?
▲「卜伴錦(ぼくはんにしき)」(中部)
唐子咲きまたは獅子咲きと呼ばれる種類
▲「御代の栄(みよのさかえ)」(福岡)
花弁にうっすらグラデーション
▲「シナモン・シンディー」(アメリカ)
いい香りがするかわいらしい花
▲「デッビー」(ニュージーランド)
ダイナミックな牡丹咲きで華やか!
いろいろな椿を見て回りましたが、日本の椿はなんとなく和のたたずまい。対して、アメリカやニュージーランドのツバキはバラやボタンを思わせる咲きっぷりで、「ツバキ」というより「キャメリア」のほうがしっくりくるゴージャス感。西洋で、その土地の人たちの好みに合うように見事に品種改良されたんですね。
椿は、同じ1本の木であっても咲く花の色や花弁の数にもバラつきが出るといいます。その多様性、フレキシブルさが、いろいろな場所で子孫を増やすことができる生命力の強さにつながっているのかもしれません。
品種の多さ、ネーミングの妙、そして花の美しさに実用性……いろいろと楽しめる椿の世界。うーん、奥が深い。熱心な愛好家が多いのも頷けますね。
身近なツバキ
椿は庭木としても多く植えられています。一般のお宅や市庁舎、公園等でもよく見られるので、散歩がてら近所に椿がないか探してみるのも楽しいですよ。
▲松山城ロープウェイ乗り場の出口付近に植えられた椿
▲山間の野生のヤブツバキにも野趣溢れる魅力が
椿の木の下をじっくり見てみると、焦げ茶色の椿のタネを見つけることができます。形はアサガオの種に似ていますが、大人の指の先くらいの大きさがあるので見つけるのは簡単です。
▲椿の種はこんな感じ。丈夫な硬い殻に守られているので、長期間、風雨にさらされてもへっちゃら
昔遊びのひとつとして椿のタネで作る笛があるのをご存知でしょうか? 公園や道ばたの椿の下で拾った種で、試しに椿笛を作ってみました。
▲種のとんがっている方をコンクリートなどで擦ってすり減らす
▲穴が空いたらつまようじなどで中身をほじくり出す
▲穴がちょっとズレたのが気になりつつも、完成
種を絞って油が作られているだけあって、椿の種の中身はなかなかオイリーです。
吹いてみると、「ピィー♪」と高い音が出て、ちゃんと笛になっていました! 感動。吹き方のコツは、ガラス瓶の口を吹いて音を出すのと同じで、穴の横からちょっと空気を逃がす感じです。
拾った種をいくつか、プランターに蒔いてみたので、椿の強い生命力を信じて育ててみたいと思います!