キャラコとはインド産の綿布のことです。
産業革命以前、16世紀頃のイギリスにおいて、アジア交易の主要な貿易品は胡椒や香料でした。17世紀半ばからはインドで生産された綿布「キャラコ」の輸入が増大します。キャラコとはインド綿布を輸出していたカリカット港がなまって呼ばれるようになったものです。元々地中海貿易でルネサンス時代からヨーロッパにもたらされていましたが、香辛料と同じく仲介者が多いために高価でした。
しかしイギリス東インド会社設立後、直接買い付けるようになるとその安価な綿布は主要な交易品となります。アンボイナ事件以降、イギリスは東南アジアとの香辛料貿易自体が頓挫してしまい、次第に香料も値崩れしたこともあって、インド木綿の輸入量が全体の3分の2を占めるほど莫大なものになったそうです。
軽くてあたたかく、手触りもよくて何より安いキャラコは大人気となります。当時のイギリスは「羊が人を食う」と呼ばれるほど毛織物工業に力を入れていましたが、「キャラコ熱」と呼ばれるほどのブームとなったことで、イギリス毛織物業は大打撃を受けます。
毛織物業者の圧力で1700年にはキャラコ輸入禁止法が制定され、20年後には使用禁止法まで作られるほどでした。ただ、染色されていない白キャラコの輸入は許されていたため、その人気と需要は続きます。1760年代から始まる産業革命は、このキャラコを国産化しようと技術革新したものといえます。
産業革命が進み、ハーグリーブスやアークライトの紡績機によって生産効率が劇的に向上すると、さすがにキャラコ使用禁止法は廃止されます。毛織物にかわって綿織物がイギリスの輸出品となり、かつてはキャラコを輸出する側だったインドでは、逆に大量生産された安価で良質なイギリス綿布が運び込まれ、地元インドの手工業者が職を失ってしまうのですね。手工業でなかなか生産量が伸びなかったインドと、技術革新と資本投下で一気に大量生産を実現したイギリス、両者の対比はなかなか興味深いですね。
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