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「清水屋と言ったら、安売りのクリーニング屋でしょ」
− 後半は「清水屋クリーニング」についてもう少し聞かせてください。
約5年前にリブランディングして、このパッケージのイメージに変わりましたが、それまではイルカのマークが目印だったんですよ。当時は、良くも悪くも「清水屋といったら安売りのクリーニング屋でしょ」というのが浸透していたと思います。おそらく松山のクリーニング業界の価格破壊の流れを作りました。5点まとめて1000円といった販促も、先代の父親が始めたものでした。
昔のクリーニング屋は御用聞きというか、自転車で家を回るのが主流だったのですが、関東のほうで“お客さんから店に持ち込んでもらう”という仕組みが出始めたとき、先代がすぐさま学びに行って、愛媛に戻ってから導入しました。地方ではまだ珍しいほうでしたが、そのやり方でうまく流れに乗れたおかげて、今のうちの基盤があります。
でも時代が変わるにつれ、ずっと安売りでやっていくのもなかなか難しい。今後も息を長く続けていこうとなると、お客さんのターゲットも変えていかなければとなって、リブランディングに至りました。看板にカタカナで「クリーニング」と書かないのは勇気がいりましたよ。(笑)
蓄積してきた知識や技術が新しいアイデアに。
以前はとにかく価格でお客さんにサービスするという方向だったのですが、リブランディングを機に仕事の中身や幅で対応していくことで自社の立ち位置を固めることにしたので、今は本業についての学びや理解をどんどん深めていっている段階です。洗剤も、これまでは業者さんからおすすめされた中から単に効果だけをみて選んでいたけど、最近は「なんでだろう?」「もう少し汚れを落とすにはどうすればいいだろう?」とか「そもそも落とさなくてはならない汚れとはなんだろう?」と理屈で考えようとする姿勢に変わってきました。
とくに洋服は生地と糸、パーツの集合体でしょ? それに染色の染料が加わるので最終的に全部についてかなり深い知識が必要になる。糸のことも掘り下げていくと、羊のことも知らないといけないかも知れない。ポリエステルのような最新素材にも理解が必要。なんで速乾性が優れていたり、暖かく感じるかとか。洗う上では、こういう処理をする必要があるとかね。
洋服にはいろんなパターンがあり、クリーニング屋としては、最終的に形を整えないといけない。素材の特徴によってアイロンのかけ方を変えるなど、整形の知識も必要。お客様に正しい形でお返しするためには、最近のファッショントレンドも理解してないといけない。だから服や糸まで理解しないと、メンテナンスが成立しないんです。本当に好きでないと、なかなかできません。
「SHIMIZUYA Laundry Soapは、会社の方向性を変えた一品と言えるかも。」
おかげさまで、それぞれの素材やパーツと向き合うことで、洋服に限らずいろいろなものに応用できるということが最近分かってきました。服だけでなく、靴の洗い方にも新しい発見があったり、だったら次は麦わら帽子も洗えるんじゃなかとか、いろんな可能性につながる。新しく何かをしようというよりは、今持っている知識や技術を違うものに活かすという方向で、もう少し幅を広げていけるかなと思っています。
ここ数年で、知識と技術の蓄積ができたのはよかったなと。この洗剤づくりがきっかけだったと思います。
BHJさんやパルセイユさんの取り組みに触れて、自然や環境、体にやさしいことをもっと真面目に考えないといけないと思ったのもそうですね。ある意味、「SHIMIZUYA Laundry Soap」は、うちの会社の方向性を変えた一品といえるかも。
− 社内に研究室のような部署があるのですか?
今はないです。でも今回のような新技術開発や、洗濯テストなどが増えてきて、短期間のチームをつくっては解散しているような状態。今はコロナの影響で不確定事項が多いので、どうにでもなる状態を維持しながら取り組んでいます。もう少し状況が固まれば、チームも固めていきたいところです。
とにかく“点”を多く打っておく。
− 今後、新たに取り組みたいことなどあれば教えてください。
個人的に、今は「染め」の勉強をしています。とくに具体的な商品化を目指しているというわけではないのですが。「SHIMIZUYA Laundry Soap」にはJAPAN BLUE JEANSさんとコラボしたデニム用の洗剤もあるのですが、その開発をきっかけに出会った藍染の農家さんに染めについて教えてもらっています。
あまり突拍子もないことはしないのですが、とにかく今は点を多く打っておこうと。その点が、ある日突然なにか新しい製品やサービスに結びつくと思っています。
うちは服のお直しやリフォームも行なっているのですが、単純なお直しだけではなく、たとえばポケットをつけるサービスとか、そっち方向で考えたらまだ可能性はたくさんある。縫製技術とか機械をもっと整えれば、メンテナンスの幅はもっと広げられますね。
クリーニング屋さんの仕事が減りつつある時代に。
− クリーニング屋さんに服を預ける人は、ものを大事にしたいという思いを持っている人だと思います。
これからその傾向はもっと濃くなると思います。実は、近年は家電製品や繊維が進化した影響で、クリーニング屋の仕事は少しずつ減っているんです。今はまだ誰もが普通に使うものとされていますが、これからは、言い方が悪いかもしれませんが、お金に余裕があるか、こだわりがある人以外はそんなにクリーニング屋さんを利用することがない時代に入ってくると思っています。なので、そういったお客さんのニーズに、ある程度の深さで対応できるようにしていないと存在価値がないというか。
今はちょっとネットで検索すれば、それなりの情報がパッと広がるじゃないですか。それを超えるものを持っておかないと存在価値がなくなるので、そういう意味ではもう少し“おもしろさ”も必要ですね。仕事だと思ってやっていると、自分たちもつまらないので。感動する気持ちをなるべく絶やさないようにすれば、自然と深堀りもできるかなという思いで、今のところやっております。
〜余談〜
− パッケージが文字で語ってないのが、潔くてすごくいい。
無機質ですよね。やる気のなさ……まるで携帯を持って信号待ちしている少年のような主張の無さ。
このパッケージはよく褒められるけど、それはデザイナーの力だから私は嬉しくないんですよ(笑)
でもきっかけはデザインですよね。モテたいと思ってギターを始めるようなもので、入口はそれでいいんです。使ううちにものの良さを分かってほしいですね。
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