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数あるタオルの中で伊織のタオルを選んでくれる、あの人。
いつもお店に来てくれる、あの人。
一体どういう人なんだろう。どんな暮らしをしているんだろう。
伊織のタオルを通じて出会った、ちょっと気になる人たちに、タオルのこと、身の回りのこと、よかったら教えて! とインタビューしていくこちらの企画。
第2回は愛媛の焼き物・砥部焼の窯元・スギウラ工房の杉浦 綾さん。
築50年のビルの一室をリノベーションしたという素敵なご自宅にお邪魔し、砥部焼のこと、暮らしのことなどお話を伺いました。
暮らしを楽しむ 人とタオル
#002 杉浦 綾 スギウラ工房
インタビュー・テキスト:森香奈子/撮影:森川誠治
– 新潟県のご出身だそうですが、愛媛に住んでどのぐらいですか?
愛媛に越してきたのは中学3年生のとき、父の転勤で。高校卒業までいて、その後、東京の美大に行きました。15歳まで過ごした新潟にも思い出はたくさんありますが、愛媛のほうがもう長いので、居心地がいいのは愛媛ですね。だって新潟は寒いんだから!
「どうして砥部焼作家になったの?」という質問にはいつも返答に困る(笑)
– どうして砥部焼作家の道へ?
両親から「砥部焼作家になってみたら?」と言われたのがきっかけで。私は美大卒だし、夫もずっと人形をつくっていたからというのがあったんですけど。美術の世界では、つくったものを売って生計立てるっていうことが、とっても難しいんですよね。だけど工芸なら可能なのかもしれないと。本当に若かったから、大学出てちょっと働いてすぐにその提案に乗って(笑)。
それで砥部焼をやってみよう! となった27歳から愛知県の焼き物産地(瀬戸市)の学校で陶芸を学び、30歳のときに砥部に戻ってきました。
– 美大に入学したときは、どういう目標をもっていたのですか?
私は昔から古典紋様とかがすごい好きで、源氏物語とかの修復がしたかったんですよ。でも美大行っても源氏物語の修復はできないということが分かって。そこからは違う道を目指したんですけど、在学中に映画を撮ったりしていたので、卒業後は映像の世界に入りました。しばらくは東京でケーブルテレビのディレクターをやっていたんですよ。
……と、こんな感じで脈略ないから、いつも「どうして砥部焼作家になったの?」という質問には返答に困るんだよね(笑)。
陶芸家ってセンスだとか個性だとか言うけれど、本当に大事なのは継続だと思うから。
– お休みの日は決めていますか?
私は土日休みにしています。平日は9-18時、お昼休憩もきっちりとって。ひとりサラリーマンなんですよ。最初のうちは「作家とはこういうものだろう」という幻想とか妄想があったので、思いついたときには寝る間も惜しんで、寝ずに制作して、窯を焚いたあとは1週間ぐらいなにもせずに休んで、それでまた制作して……みたいなことをしてたんですけど。
でも続かないのね、体力的に。あと戻れない。コンスタントにやっているほうがいいんですよ。規則正しく仕事して、というのが私には合ってたんでしょうね。
浅田次郎って作家がいるでしょ? あの人、どんなに筆がのって、どんなにストーリーを思いついていても9時から17時までしか書かないんですって。なんでですかと聞かれた答えが「長く書くためです」と。その言葉に、ほ〜! と思って。私もそうしよう! と決めました。
陶芸家ってセンスだとか個性だとか言うけれど、本当に大事なのは継続だと思うから。続けるって本当に大事です。
– お休みの日には何を?
よく料理をしていますね。食べるのも、飲むのも好きで。美味しく飲むための料理なら、どんなにめんどくさくても作ります。
– Instagramを拝見していると海釣りをしていたり、アクティブな印象です。
釣りが好きなんですよ。これも釣った魚を食べるため。基本的には自分たちで捌きます。海に出て、釣りをするたびに、ほんと愛媛に来てよかったなと思います。瀬戸内海って穏やかで、だけど潮がすごいぐるぐるしていて、いい魚がいっぱいいて、いい海なんです。
– 食事を楽しむ心は大事ですよね。そしてそれも継続が大事。
▲杉浦さんの制作にも釣好きの片鱗が。こちらは釣り人が描かれた鍋敷き。
– お使いいただいている伊織のタオルを見せてください!
紺とベージュのシンプルなタオル(kaze)は、2年ぐらい使っています。あと全色揃えたのがこのワッフルタオル(Waffle)。
▲写真左から、「kaze」と「Waffle」。
タオルの上手な洗濯方法、気になってます。
– どれも使い込んだ風合いになってますね。
うちドラム式洗濯機だからか、どうしてもパイルが潰れちゃうのよね。乾燥機かけたときの感じが好きじゃなくて、いつも天日干しなんだけど……もっとなんとかならないの?
– ドラム式は節水に長けているぶん、少ない水で叩き洗うものが多く、どうしても繊維に負担がかかりやすいという面があります。できればタオルが泳ぐぐらいのたっぷりの水でゆったりと洗うのが理想ですね。あと長時間の天日干しには注意が必要で、ふんわり仕上げたい場合は風通しが良く直射日光が当たらない日陰干しがおすすめですね。
前の家では洗濯機を部屋の中に置いていたから、かっこよさで選んだのね。でも今の家は洗濯スペースが屋上にあって、誰にも見られないからもうどうだっていいの。次に買い替えるときは縦型にしようかな。
そうえいば伊織さんのインスタで紹介されていた、こうやってタオル10回振る動画(タオルとくらす研究室:動画「タオルの振りさばき方」https://youtu.be/gHw85kO2Oqk)を見てからは、なるほど! って思って毎回やってます。それからは少し良くなったかな。
紺やグレーのタオルを選ぶことが多いけれど、もっといろんな色がほしいと思うタオルシリーズも。
– タオルを選ぶとき、色にこだわりは?
ピンクとか黄緑とかファンシーな色や、パステルカラーは買わないですね。壁がコンクリートでしょ? コンクリートにファンシーは合わないんですよ(笑)。
– 家に合わせて、タオルも風景の一部のような感覚ですか?
そうそう! そういう感覚です。たいてい紺とグレーの2色を選んでいます。
– そんな中、どうしてこの「Waffle」は全色揃えてくださったんですか?
これはね、本当はもっと色を出してほしいくらい。出せば出すほど絶対買う! ほんとに大好きで、こないだお店に行ったときに、「もっとないの?」ってスタッフさんに聞いたんです。で、持ってなかった赤と白の存在を知って、即購入しました。
– 「Waffle」はすべて台所専用としてお使いになっているようですが?
うちって、よく人が来て、誰かしらが料理を作るってことが多いので、お客さまが使うものは良いものにしておきたいなと思って。
▲キッチン周りは毛羽が少なく乾きの速い「Waffle」やリネンが重宝。
– なるほど、タオルでさりげなく“おもてなし”。
そうそう、そんな感じです。もし「Waffle」に新しい色が出たら、自分用に買いたいんだよね。台所用と自分用って、なんとなく分けたいじゃないですか、気分的に。水色とか、芝生みたいな緑色とかあったら良いと思うな。
– とくにお気に入りのタオルはどれですか?
この「Japan Stitch」ですね。これは私の顔・身体用。パイルのタオルしか知らなかったので、ガーゼタオルの存在に驚きました。買ったときはこのステッチもただの模様だと思っていて、こんなに肌で感じられるって思わなかったの。裏と表も全然違うじゃん。凸凹面で拭くたびに幸せを感じます。
▲4重ガーゼの「Japan Stitch」。砥部焼に使われる顔料の呉須にも通じる青は、杉浦さんが一番好きな色だそう。
– ちなみにバスタオルは使わないそうですね?
小さい頃から家にバスタオルがなかったの。だからバスタオルってものがあまりわからなくて(笑)。ホテルとかに行くと「なんだこの素敵なものは! 」って思うんだけど、だからと言って自宅でも使うっていう発想があまりなくて。 夫婦揃ってバスタオルを使わないけど、吸水性のいいタオルだと小さいサイズで十分だなって。洗濯も楽だし。
あと水泳部だったからかな……水泳部ってスポンジみたいな小さいタオルで拭くのね。それに慣れてて、だからあんまり違和感ないのかな。
– タオルはどのぐらいの頻度で交換しますか?
洗濯のたびに家中のタオルを替えるから、2日に1回かな。身体拭くのは各自その都度です。一回拭いたらお洗濯。洗面所のタオル2枚は、固定でローテーション。
▲上段の「Cable Stitch」は家族の手拭き用、下段の「Japan Stitch」は杉浦さん専用の顔・身体用。
– 「Japan Stitch」と「Cable Stitch」、肌触りのユニークなものを選んでくださっていますね。タオル選びでは、意識して肌触りを確かめますか?
いや~あまり意識はしてないかな。まずはデザイン。タオルって、自分だけ用と見せる用ってあるでしょ? 見せる用にはやっぱりこんな珍しいデザイン(Cable Stitch)とか。感触については実際使ってから気付くって感じかな。ふわふわなものはあまり好んで買わなくて。
– こんなタオルがあったら! とかありますか?
私の中で概念を覆されたのはこの「Japan Stitch」だから、これをもっとカラー展開してほしい。パイルじゃないタオル!
▲「Japan Stitch」
古くなったタオルやパジャマ、Tシャツなどはカットしてウエスに。
– タオルを新しく買い替えるタイミングなど決めていますか?
肌触りとニオイが気になったときかな。どうしてもニオイが気になったとき、一度煮沸してみたことがあるの。だけどどうしても取れなくて。ケミカルなことをしても結局嫌な気分になるし、そうなったらもう手放します。カットしてウエスにしてます。
– 最後まで活用されているのですね。
タオルに限らずパジャマとかTシャツとかも同じようにウエスとして活用します。鉄製のフライパンを使ったあとに油汚れを拭ったり、そういうのでガンガン要るわけ。だからいつもキッチンにストックしてる。今置いてあるのは、私のパジャマだけど。
もの選びに関しては、以前よりもものすごく厳しくなりました。
– タオルなど暮らしの道具を選ぶときに、こだわっているテーマや心がけていることはありますか?
できるだけ長く使えるものを選ぶようにしています。あと、捨てるときになるべく自然に戻りそうな素材を選んでいます。フライパンも全部鉄なんだけど、鉄ならいつか鉄くずに生まれ変われるでしょ? 鍋や洗濯のピンチとかも、ほぼ全部ステンレス。
スイスのモンブランという高い山の頂上で、マイクロプラスチックが確認されたというをニュースを聞いたときに、うわっと衝撃を受けて。プラスチックの洗濯バサミとかも、風化すると最終的にすごい粉になるでしょ? ああいうのが舞うんだなと思って。だからできるだけ自分でその要因を消していこうと思っています。もの選びに関しては、以前よりもものすごく厳しくなりました。
でも便利なものほどプラスチック素材だったりするし、つい、かわいい! だけで選んでしまうものもあるので、気をつけないとな、と。こういうのも日々のちょっとしたことの積み重ねですよね。
好きなタオルを使って顔を拭いた日はご機嫌でいられます。
– 最後に、杉浦さんにとってタオルとはなんですか?
タオルは私の一日の機嫌を左右する重要な道具ですね。好きなタオルを使って顔を拭いた日はご機嫌でいられます。そうやって身の回りのものを好きなもので固めて自分のご機嫌を取っているんだと思います。歳を重ねるごとにその大切さがわかってきました。
▲「あるだけで楽しい気分になれるから」と家の中にたくさんの絵を飾っている杉浦さん。作品展などに足を運んで、気に入ったものを少しずつ集めているそう。(左から時計回り:松山の美術家 故・二神日満男さん、版画作家の西平幸太さん、美術家の神山恭昭さん)
▲愛媛在住のギャグ漫画家・和田ラヂヲさんの原画(https://twitter.com/radiowada)
▲こちらはお昼寝する綾さんの姿が描かれた絵。描いたのはご主人であり人形作家の杉浦史典さん(https://www.instagram.com/f.sugiurakoubow)
▲カラフルなオモチャは飼っている鳥たちの遊び道具
▲文鳥の“ぷっちゃん”
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自分にとって心地いいこと、そして自分が暮らしている地球のために必要なことは何かを日常の中で感じながら生活し、無理のないペースで「続けること」を大切にしている杉浦さん。
玄関から入って正面に飾られていた「喫茶去」という言葉。これはお茶の世界で「まあまあ、どうぞ」という意味だそうです。杉浦さんの、大胆でおおらかで、ユーモア溢れる人柄を表しているようにも感じました。
▲「喫茶去」の書は、なんと手作りのダンボールアート。お茶の先生から引越祝でいただいたそう。
スギウラ工房 杉浦 綾 すぎうら あや
1972年 新潟県新潟市生まれ
東京造形大学デザイン科卒業
愛知県瀬戸窯業高校専攻科修了
2000年 愛媛県砥部町にてスギウラ工房開窯
https://sugiurakoubow.blogspot.com/
4月1日愛媛県松山市にて新店舗をオープン!
学と芸「七分(ななぶ)」
– 生活に学びと芸術を –
大人のための知的探求を模索していく空間です。
ワークショップや勉強会、展覧会などなどを企画発表していきます。
100%は大変。でも70%くらいなら出来るかも?
「七分」の精神で学びと芸術を生活に。
七分 Instagram(nanabu_7)